「成長のための糧」

2020年のスーパーGTは驚くほどの早さで月日が過ぎていく。
前回の富士スピードウェイでの前進からわずか2週間でARTAは鈴鹿サーキットへとやって来た。
富士で得た手応えを、ホンダの地元鈴鹿で結果へと繋げたい。
GT300クラスを戦う55号車ARTA NSX GT3は開幕前テストで鈴鹿を走行しており、Q1で予想外の苦戦を強いられはしたが、高木真一が根性の走りでQ2進出を決め、Q2では大湯都史樹が予選2位を掴み取ってみせた。
決勝は朝から快晴の鈴鹿で行なわれた。
土屋「風は昨日と同じ、1コーナーからの向かい風でやや強い。フロントタイヤとブレーキに熱を入れてください」
高木「はい〜、了解です」
エグゼクティブアドバイザーの土屋圭市がいつものようにピットウォールからドライバー目線でスタートドライバーの高木にアドバイスを送る。
レースがスタートし、高木はポジションをキープしながら走行を続ける。エンジニアの岡島慎太郎と情報をやりとりしながらレースを進めていくが、徐々にブレーキのフィーリングが変化していく。
岡島「ギャップは1.6秒。ウォームアップは結構キツいですか?」
高木「ちょっとね、ちょっとキツいね。最初アンダーステアで、今オーバーになっていくところ」
岡島「今全体で2番目に速いペースで走ってます」
高木「ブレーキが止まらなくなってきているね」
岡島「トップまでギャップ3.2。まだ食らいついて行けてますよ」
高木「いや〜、ブレーキだね〜。ヘアピンが全く曲がらない!」
岡島「ABS2も試してみてください」
高木「2の方が少し良いかもしれない。5まで試したけど今は2にしてる」
岡島「了解、ラップタイムはトップと0.2秒差でペースは悪くない」
16周目にバックストレートに落下物がありセーフティカーが導入され、21周目にレース再開。
GT500クラスの集団に周回遅れにされる直前にセーフティカーが入ったため「500のトップに抜かれなかったよ、これめっちゃラッキーじゃない?」と興奮した高木だったが、それほど大きなアドバンテージにはならなかった。
しかしレース再開直後にトップの31号車プリウスがピットインしたため高木は首位を走る。
高木「プリウス入った!」
岡島「ここからフルプッシュ!」
高木「いくぜ〜!」
岡島「56号車も入ったからね」
高木「やっぱり(タイヤの)内圧が低いとキツいぞ〜。でも頑張る!」
土屋「真一、頑張れよ! ペースは良いよ!」
高木「はいよ〜、ちょっとバランスは良くなった。でもとにかくヘアピンが全く曲がらない。絶対に仕掛けるな、絶対に行っちゃダメだよ」
ブレーキの利きが弱くアンダーステア傾向のマシンと格闘しながら、高木は次にバトンを託す新人大湯にアドバイスを送ることも忘れなかった。
高木は24周目にピットに飛び込み、大湯へとドライバーチェンジを行なう。
そしてGT300クラスを戦う55号車のステアリングを握った大湯も果敢に攻めてポジションを上げていった。
岡島「56号車、11号車はライバル車両。オーバーテイクして!」
大湯「了解。11号車もね?」
岡島「11号車も!」
大湯「この前の3台がトップ3?」
岡島「大湯は今実質ポジション5。前は4台」
大湯「マッハがトップってこと?」
岡島「タイミングモニター上では7号車がトップだけど、ピットインを済ませた中ではマッハがトップだよ」
大湯は順調にポジションを上げて3番手へ。トップ集団に追い付いてさらに前を伺うが、クラッチの不具合かシフトダウンに問題を抱えながらの走行を強いられる。
前の56号車はタイヤが厳しそうでペースが上がらない。それは第1スティントから予想できていたことだ。
岡島「高木さんの時も56号車はタイヤがタレてきたから、後半が勝負だぞ」
大湯「了解」
バトルは徐々に激しいものとなっていき、56号車も必死のブロックを試みる。そんな中でデグナーの飛び込みで大湯の減速が遅れ、56号車のテールに追突。ARTA NSX GT3のボンネットが外れ飛び、冷却系にもダメージを負ってしまった。
岡島「大湯、この周BOX!」
土屋「もう安全なところで止めて。水漏れしているからもうダメ」
大湯「止まります、すいません」
8号車、55号車ともに鈴鹿で速さを見せ、さらに上位へと進出する可能性を証明してみせた。
しかし富士とは違って曲がりくねった追い抜きポイントの少ない鈴鹿で、奇しくも2台ともに前走車への追突というかたちで自らそのチャンスを逃してしまった。
速さを見せたことはポジティブ。しかしこのような戦いをしていたのでは王座には手は届かない。
今季から新たなカテゴリーで頂点へと挑む2人のドライバーにとっては、おおきな学びとなったはずだ。
これを糧に学び大きく成長すれば、この失敗の意味もポジティブなものへと変わるはずだ。

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